プロスペクト理論
プロスペクト理論の元となった実験は、カーネマンが「一つだけの質問による心理学(psychology of single questions)」と呼ぶ手法による。この手法は、心理学者のウォルター・ミシェル(英語版)が用いた方法を参考にしたものである。
例えば、以下の二つの質問について考えてみよう。
質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:100万円が無条件で手に入る。
選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。
質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。
質問1は、どちらの選択肢も手に入る金額の期待値は100万円と同額である。にもかかわらず、一般的には、堅実性の高い「選択肢A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされている。
質問2も両者の期待値は-100万円と同額である。安易に考えれば、質問1で「選択肢A」を選んだ人ならば、質問2でも堅実的な「選択肢A」を選ぶだろうと推測される。しかし、質問1で「選択肢A」を選んだほぼすべての者が、質問2ではギャンブル性の高い「選択肢B」を選ぶことが実証されている。
この一連の結果が意味することは、人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)があるということである。
質問1の場合は、「50 %の確率で何も手に入らない」というリスクを回避し、「100 %の確率で確実に100万円を手に入れよう」としていると考えられる。また、質問2の場合は、「100 %の確率で確実に100万円を支払う」という損失を回避し、「50 %の確率で支払いを免除されよう」としていると考えられる。